スパークリングコラム④ 醸造・熟成について
前回まではシャンパーニュの気候や、畑で何が起こっているかについて書いてきました。
今回は畑での作業が終わり、ワイナリーでどのようなことが行われていくのかを見て行きたいと思います。
極々おおまかに流れを確認すると、
- ブドウをプレスして果汁状態にする
- 果汁をアルコール発酵させワインにする
- 二次醗酵によりスパークリングにする
- 熟成させ、出荷する
というような流れです。
順に見て行きたいと思います。
1.プレス
シャンパーニュでは、黒ブドウからの色素を移さず、白ワインを造るため、繊細なプレス技術を要します。
品質を維持するため、4000kgのブドウから25.5hLしか果汁を搾りません。
最初の20.5hLはキュベ、最後の5hLはタイユと呼ばれ、性質が違います。
キュベの方が糖と酸が多く、エレガントさと長期熟成のポテンシャルを持つと言われます。
タイユは酸が落ち着いているが色素とフェノールが豊富で表現力豊かですが、熟成ポテンシャルはキュベほどありません。
プレスの負荷はブドウの酒類や目的などの詳細によって文書化されています。
ブドウは茎のついた「全房」の状態のままプレスされます。
堅い茎はブドウとブドウの間に果汁が逃げるチャネルをつくり、高い圧力をかけなくても果汁を排出する事が可能です。
バスケット式と呼ばれる、木製の圧搾機にブドウを入れ、上から圧力をかけて行う(日本酒の「佐瀬式」に似ている)ものが最も伝統的な手法ですが、現在は温度制御・酸化防止が可能な空気圧式プレス機を使用する(日本酒の「薮田式」にやや似ている)のが主流です。
- アルコール発酵
多くの生産者はステンレスタンクでの発酵を選択します。
白ワインとしては比較的温度の高い18-20℃で発酵させ、香りのニュートラルなベースワインを造ります。
(逆にもしアロマティックにワインを造ろうと思えば、低温発酵で「酢酸イソアミル(バナナや洋ナシの香り)」の様な香り成分を多く造るようにしますが、基本的にシャンパーニュでは行いません)
自然酵母と比較し欠陥の香りが出ず確実な発酵を行う事が出来るため、発酵の際には販売されている酵母を選択する場合が多いです。
多くの生産者はこの段階で「マロラクティック発酵」を行うことを選択します。
マロラクティック発酵は酸を抑え丸くする乳酸発酵です。
生産者のスタイルによっては、果実の酸や風味をそのまま活かすためにマロラクティック発酵を避ける場合もあります。
完成したワインは清澄・濾過されクリアなベースワインとしてブレンドされる準備がされます。
アッサンブラージュ(ブレンド)する目的はそれぞれのベースワインの魅力をそれ以上にすることです。
マスターブレンダーの経験とノウハウを頼りに、異なる畑、品種、ヴィンテージのペースワインをブレンドします。
ノンミレジム(ノン・ヴィンテージ)のワインでは、ヴィンテージの影響を限りなく少なくし、一定のスタイルを保つため、ブレンドの作業は重要です。
ベースワインの引き出しが多いほど、スタイルを守りやすくなります。
大きなシャンパーニュハウスがマーケットを支配している理由の一つとして、様々な生産者のリザーヴワイン(過去ヴィンテージのベースワイン)を大量にストックできるため、ハイクオリティなスタイルを形成しやすいという面はあります。
この段階で、ロゼをブレンドすることも可能です。
ほとんどのロゼシャンパーニュはブレンドをすることでロゼ色を達成しています。
ローラン・ペリエのような少数の生産者は、黒ブドウの果皮との長時間接触により色素を抽出して造っています。
この造り方では、目的どおりの抽出を達成するために技術を必要とします。
ブレンド後は安定化のため酒石酸塩を結晶化させ、除去するために-4℃で一週間置く、もしくは酒石酸の結晶を加え攪拌するなどの作業を行います。
- 瓶内二次発酵
二回目の発酵を行うためワインにサトウキビもしくはビートのシュガーを混ぜたリキュールを加えます。
6バールの圧力を得るためには24g/Lの糖添加が必要とされています。
市販の酵母、ベントナイトなどの澱下げ剤なども一緒に加えられます。
二次発酵では、
- 11度のアルコール度数の中で発酵を開始できる
- 圧力が高まり酸素が限定される環境で発酵できる
- 12度の低温で発酵できる
などの性質を持った酵母を選択する必要があります。
この二次発酵段階で更にアルコールや香り成分が生まれるため、一次発酵のベースワインの段階ではニュートラルでアルコールが低い状態が望まれます。
こうみると冷涼で熟しにくいシャンパーニュのシャルドネは、スティルワインとしてはパワーに欠けていても、スパークリングワインの製造には理想的なのですね。
- 熟成
澱の上で寝かせる工程は、全ての工程の中でも最重要項目の一つとされています。
シャンパーニュの特徴であるトーストやブリオッシュの香りはこのタイミングでイースト・オートリシス(酵母の自己消化)という現象により付与されます。
ヴィンテージでないシャンパーニュについては全体で15ヶ月、内12ヶ月は澱と共に寝かせなければなりません。
ヴィンテージ(ミレジム)の場合は最低30ヶ月、内12ヶ月は澱の上で寝かせます。
厳しいルールではありますが、たいていの生産者はこのルール以上に熟成させています。
ノンミレジムで2-3年、ミレジメで4-10年ほど寝かせる事が多いといわれます。
ワインを寝かせるときは、低温(12℃程)かつ一定の温度に保つ必要があります。
温度が高いほど「自己消化」は進みますが、複雑さにかけてしまうようです。
また、この時点の栓にコルクを使うかプラスチック栓などを使うかにより、
微量の酸素による酸化度合いも調整します。
澱の上での熟成が終わると、澱を抜く作業が行われます。
手作業で行うと時間も手間も非常にかかりますが、近年では「ジャイロパレット」と呼ばれる機会を導入するなどして自動化する生産者も増えています。
織抜きをしてから再び瓶を密閉する前に「ドザージュ」もしくは「リキュールデクスペディション」と呼ばれる工程を行います。
ここでは砂糖とワインを混合したものを添加することで味わいの調整を行います。
糖を添加するので当然「甘味」の調整の役割を持つのですが、熟成を前提とした場合、糖が熟成により複雑な風味を作り上げてくれることも目的とされます。
ロゼワインを作る際はこのタイミングで加えるワインにロゼを使用し色味の調整をすることも出来ます。
5.おわりに
以上が、ワイナリーでの大まかな作業内容です。
実際のシャンパーニュの製法は非常に細かいもので、一つ一つ追っていくと長くなってしまいますのでここでは割愛をさせて頂きます。
(今回の内容でも十分細かかったかもしれませんが…)
とにかくシャンパーニュでは品質を保証するために厳格な基準が設けられているという事がわかりましたね。
シャンパーニュを飲むときのありがたみが増します^^
せっかくなので次回からはシャンパーニュ以外のスパークリングワインも見て行きましょう!
どうぞよろしくお願いいたします!